レゴランドはディズニーランドとビジネスモデルが全然違っているようです。「小さく作って手堅く稼ぐ」という感じで、ターゲットを小さい子とその親に絞り込んでいます。この点に対する誤解が、ネットでの不評の一因になっているかもしれません。あと、「手堅く稼ぐ」と書いたものの、営業利益率はディズニーランドすら大きく上回るものになっています。ここらへんのビジネスモデルは相当練り込まれており、感心しきりでした。
2017/09/09追加:
●絶好調から一転不調のレゴ、経営者も従業員もクビに
2020/11/06:
●レゴランドは撤退どころか、新型コロナでも大幅拡張か?
●レゴランドを運営しているのはレゴグループじゃなかった
レゴに関する話は以前もやっています。
コモディティ化対策の例 レゴは機能ではなくストーリーで売って成功というものです。
そのときの話によれば、レゴは多角化で失敗した末に多角化をやめて原点回帰していました。なので、レゴランドのような本業と関係ない事業をなぜ今さら増やしているのか?と不思議に思っていました。
その謎が解けたのが、
レゴランド、小さい規模で手堅く稼ぐ:日経ビジネスオンライン(宇賀神 宰司 2017年4月7日)というインタビュー記事。
レゴランドを運営しているのは、レゴではなく英マーリン・エンターテインメンツというテーマパーク運営が本業の会社。欧州中心に4カ所あったレゴランドの事業は、2005年にレゴグループから買収しています。レゴグループはレゴランドの運営には直接関わらず、マーリン側はレゴ事業の総収入の一定割合をライセンス料として支払うしくみとなっています。
マーリンは、レゴランド以外にも複数の種類の娯楽施設を持ち、世界24カ国・地域で117カ所の施設を展開する世界2位のテーマパーク運営会社です。
●レゴランドがディズニーランドよりすごい理由 営業利益率で圧勝
名古屋のレゴランドがうまく行くかはわかりませんけど、マーリンのビジネスモデルはよく考えられていて好みです。「小さく作って手堅く稼ぐ」という感じですね。
例えば、上海のディズニーランドの初期投資額は数十億ドルといわれています。一方、レゴランドは3億~3億5000万ドル程度と、一桁違います。
入場者数ももちろん違ってきます。欧州や米国などにある既存の6か所のレゴランドの年間来場者数は150万~300万人で、名古屋も200万人が目標。一方、東京ディズニーランドが3000万人、USJが1460万人となっており、これまた一桁違っていました。
じゃあ、単に小さいだけか?というと、中身が違うのです。別記事の
レゴランドの手堅い稼ぎ方:日経ビジネスDigital(日経ビジネス2017年4月10日号)によると、営業利益率ではレゴランドが圧勝していました。
マーリンのレゴランド事業(16年12月期)
売上高 685億円
営業利益率
32.9%米ウォルト・ディズニーのパークス&リゾーツ事業(16年9月期)
売上高 1兆8841億円
営業利益率 19.4%
●ネットで評判が悪い理由はターゲットの問題か?
マーリンのやり方が私好みであるのは、ターゲットを絞り込んでいることです。
ニック・ヴァーニーCEO(最高経営責責任者)は、レゴランドはターゲットを2歳~12歳の子供がいる家族層に限定しているのが、ディズニーやUSJとの大きな違いだとしていました。
中学生以上の若者、カップル、シニアなど、「ほかの層が来場することは基本的に期待していません」とのこと。完全に割り切っています。
気分悪い話だったので、ネットのレゴランド叩きはあまり見ていないため、実際は別の理由が大きいのかもしれませんけど、このターゲットの違いがネットの評判の悪さを加速しているのかも…とちょっと思いました。
ヴァーニーCEOは、以下のように小さい子とその親のことしか考えていないと断言しています。
「レゴランドは2歳~12歳の子供がいかに楽しめるか、何を学んでもらえるか、また、そうした子供を持つ両親が『ぜひ、子供をレゴランドに連れて行きたい』と思ってもらえるかという点に集中してアトラクションなどを開発しています。とにかく子供のための施設であるということを念頭において日々、運営、改善をしています」
●レゴランド最大の特徴は「教育要素」
この割り切りが良いのは、作るべきアトラクションを絞り込めることです。「ディズニーやUSJにあるようなスリル満点のアトラクションも必要ありません。それが大きな差別化だと考えています」と、ヴァーニーCEOは述べていました。
また、おもしろいのが、教育効果を狙っているということ。レゴランドは、ファンラーニングと呼んでいる、楽しみながら学べるアトラクションや仕掛けをいたるところにほどこしていると説明していました。例えば、レスキュー・アカデミーは親子で協力して消化活動する…といった具合です。
そもそも「ブロックで遊ぶ」ということも、教育的な効果がありますからね。この方向性を選んだのは、素晴らしいことだと思います。
それから、一般論として、ディズニーやUSJでは、来場者は既にセットされたものを見ることになります。一方、レゴランドは、実際にレゴブロックで作ったものを、走らせたり、振動に耐えられるかなどさまざまな実験をして遊ぶスペースがあるなど、創作する楽しみもあります。これも教育的な要素の一つでしょう。
そして、これらの教育的な効果というのが、子供を持つ親に効果的です。先の日経ビジネスDigitalでは、「親は子供の教育のために価値があると思えば、ある程度の出費はいとわない」ともヴァーニーCEOは述べていたようです。これがおそらく先程出てきた営業利益率の圧倒的な高さに繋がっているものと予想されます。
この営業利益率はもちろん名古屋のレゴランド開園前であり、名古屋の数字は入っていません。日本でも成功するかどうかは未知数で失敗する可能性もあるものの、海外で成功しているというのは納得できる、よく考えられたビジネスモデルで感心しました。
●レゴランド苦戦で、近隣施設のレストランが早くも閉店
…と下書きした後に、
来場者低迷、レゴランド隣接店舗が2か月で閉店 : 経済 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)(2017年05月23日 09時13分)という記事を発見。日本ではうまく行っていないみたいですね。
記事のタイトルは、"隣接地に今年3月オープンした複合商業施設「メイカーズ ピア」で、テナントのレストラン1店舗が22日の営業を最後に閉店した"ことを指しています。しかし、運営会社(レゴランドの運営者=マーリンのことか?)は「売上高は想定の10分の1。レゴランドが思ったように集客できておらず、テナント側には手の打ちようがない」としており、レゴランドそのもの不振のせいだと説明していました。
なお、複合商業施設「メイカーズ ピア」も、親子でそば打ちなどが楽しめる「体験型」店舗が多いということで、コンセプトはレゴランドといっしょ。最初の下書きでは「教育」の方しか強調して書いていませんでしたが、
アメリカでは高所得な若者もクルマ離れ・マイホーム離れ ミレニアル世代の新しい価値観でやったように、体験を重視するというのは世界的な傾向であり、着眼点は悪くないんですけどね。
日本はゲーム市場で言うとかなり特殊で、世界で人気の高い自由度の高いものは嫌われる一方、画一的なものが好まれやすいと言われています。ただ、体験重視の消費の増加自体は日本でも見られている傾向で、このコンセプトが日本で通用しないとも思えません。
まだ失敗したと決まったわけじゃないのですけど、レゴランドが失敗に終わった場合には、分析記事なんかを探してみたいと思います。
●絶好調から一転不調のレゴ、経営者も従業員もクビに
2017/09/09:レゴランドではなく、資本関係のないレゴ本体の話なのですが、他に適切な投稿がなくここに追加。ここ数年レゴがぐんぐん伸びていると言われていたものの、一転して不調に。中国などの新興国市場では売上高が2桁増となった一方、昨年から欧米中心に収益の伸びが鈍化。2017年6月中間決算は、売上高が前年同期比4.8%減、純利益が2.9%減となりました。
で、対応が早いな!と思ったのが、従業員全体の8%に当たる約1400人を削減すると発表したこと。迷いなく行きますね。このように北欧の企業って、福祉の手厚い国というイメージとは逆に、むしろかなりドライな印象があります。
(
玩具大手レゴ、1400人削減=高成長に陰り:時事ドットコム 2017/09/05-23:03より)
さらに対応の早さ、ドライさを感じるのが、従業員らより先に、経営者をお払い箱にしていたこと。17年から最高執行責任者(COO)だったバリ・パッダさんが昇格していたのですが、業績が振るわないと見るや、8月に交代。同じデンマークの産業機械大手ダンフォスCEOのニールス・クリスチャンセンさんを招き、経営体制を見直していたそうです。
(
玩具のレゴ、全世界で1400人削減へ 急成長から一転減収 組織スリム化 2017/9/5 17:58 加藤貴行より)
他の記事ではデジタル世代に苦戦みたいなことを書いているところも見かけましたが、経営手法は最先端な印象を受けます。
●レゴランドは撤退どころか、新型コロナでも大幅拡張か?
2020/11/06:レゴランドのニュースはその後全然聞かないのですけど、逆に言うと、まだ閉園していないってことなんでしょうね。撤退すらあり得るのではないかと思ったので、粘っている感じです。今だと新型コロナウイルス問題がトドメになる可能性もあるんですけど…。
記事を検索してみると、やはり閉鎖されていない感じ。それどころか、
レゴランド、4割拡張へ 名古屋市展示場跡地に25年にも 2020/8/11 18:30 日本経済新聞 電子版 という強気な感じの記事が出ていてびっくり。新型コロナ後の話ですよ、これ。ネットの悪い評判は間違いで、実際にはしっかり稼いでいるのでしょうか?
記事によると、名古屋市内のテーマパーク、レゴランドの運営会社は隣接する市有地を借り上げ、2025年をめどに敷地を約4割(4万平方メートル弱)広げる検討に入っりました。ただ、新型コロナウイルスの影響もあり足元の客足は鈍いのを、拡張に伴うアトラクションなどを充実させ、改めて施設の魅力を打ち出すという解説でした。
私は業績が知りたかったのですけど、なんと現在は「年間の実績は非開示」だとのこと。非公開なのは、やはり悪いせいですかね。記事では、<運営会社は17年のオープン当時、年200万人の来場者を目標に掲げていた。当初は愛知県内外のファミリー層中心ににぎわったものの、入場料の割高感やアトラクションの改善余地を指摘する声がある>としています。
このような書き方ですと、好調だからというよりは、「不調でなんとかしたい」という投資。業績が不明なのであれですけど、起死回生の一発狙い的なイメージ。危ないかもしれませんね。私は最初のときに書いていたような「小さく手堅く」という方が好み。新型コロナ問題がある今なら「空いている」も売りになりますし、まずは今の敷地内でしっかりやってほしいです。
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