「ブレインストーミング」というビジネスなどで使われる考え方に、「意味がない」という話がありました。満足感はあり、むしろすごく楽しいものではあるものの、成果というものを冷静に見てみると、全然ダメという話です。
2017/7/10:
●集団思考とも…ブレインストーミング、いわゆるブレストとは何か?
●ブレインストーミングは満足感だけで意味ない?過去データでは…
●一人の方が良い?ブレインストーミング最大の弱点は「集団」
●そんなはずない!ブレインストーミングの悪さは集合知と矛盾?
2017/09/18:
●過去の多くの研究でもブレストの効果に否定的 効果なしで無駄な理由
2018/09/12:
●ブレインストーミングで創造的な仕事をしてるように見せる9つのやり方
2020/03/28:
●研究は1個だけではわからない!18本の実験を分析してみた結果…
●でもブレストで大成功している企業があるのはなぜ?その意外な効果
●ブレストの本当のメリットはアイデア出しではなかった…別の魅力
●集団思考とも…ブレインストーミング、いわゆるブレストとは何か?
2017/7/10:「ブレスト」と略すというのを初めて知りましたが、「ブレインストーミング」というものがあります。集団思考、集団発想法、課題抽出ともいうようです。
Wikipediaによれば、集団でアイデアを出し合うことによって相互交錯の連鎖反応や発想の誘発を期待する技法。以下のようなブレインストーミングの4原則を守って行われるものだそうです。
・判断・結論を出さない(結論厳禁)
自由なアイデア抽出を制限するような、批判を含む判断・結論は慎む。判断・結論は、ブレインストーミングの次の段階にゆずる。ただし可能性を広く抽出するための質問や意見ならば、その場で自由にぶつけ合う。たとえば「予算が足りない」と否定するのはこの段階では正しくないが、「予算が足りないがどう対応するのか」と可能性を広げる発言は歓迎される。
・粗野な考えを歓迎する(自由奔放)
誰もが思いつきそうなアイデアよりも、奇抜な考え方やユニークで斬新なアイデアを重視する。新規性のある発明はたいてい最初は笑いものにされる事が多く、そういった提案こそを重視すること。
・量を重視する(質より量)
様々な角度から、多くのアイデアを出す。一般的な考え方・アイデアはもちろん、一般的でなく新規性のある考え方・アイデアまであらゆる提案を歓迎する。
・アイディアを結合し発展させる(結合改善)
別々のアイデアをくっつけたり一部を変化させたりすることで、新たなアイデアを生み出していく。他人の意見に便乗することが推奨される。
●ブレインストーミングは満足感だけで意味ない?過去データでは…
チームプロセスの改善が大好きだったジェイク・ナップさんは、グーグルで初めのころ、エンジニアのチームとブレーンストーミングのワークショップばかりをやっていました。"参加者が大声でアイデアを叫び合う集団ブレインストーミングは、とても楽しいものだ"と言います。"数時間もするとふせんが山と積まれ、ものすごい達成感が得られ"ます。
ところがある日のブレインストーミングで、一人のエンジニアが爆弾発言をしました。「ブレーンストーミングは本当に効果があるのかい?」という問いかけです。
ナップさんはブレインストーミングが大好きだったものの、"参加者がワークショップを楽しんだかどうかを調べるだけで、実際の成果を測定したこと"をしていませんでした。データを重んじるグーグルらしからぬことです。
そこで、ナップさんは、過去のワークショップの結果を見直してみたところ、これが壊滅的だったことに気づきます。成功したアイデアというものは、"喧々囂々のブレーンストーミングで生み出されたものではなかった"のです。
良いアイデアが出た方法というのは、ことごとくブレインストーミング以外。"一人で考えたときのほうがよいアイデアが浮かんで"でしいました。それは例えば、"机に向かっているときや、カフェで誰かを待っているとき、シャワーを浴びているときなど"です。
ワークショップの高揚感の中では、ブレーンストーミングのアイデアは輝いていたものの、それが冷めるとそのアイデアの輝きは冷めてしまいました。夜中に思いついた画期的なアイデアのメモを、翌朝見ると何が良かったかわからない…みたいな感じですね。
(
グーグルを劇的に変えた高速仕事術「スプリント」って? | SPRINT 最速仕事術 | ダイヤモンド・オンライン 2017年4月14日 ジェイク・ナップ,櫻井祐子 より)
●一人の方が良い?ブレインストーミング最大の弱点は「集団」
別記事の
ブレストは「やった感」以外に意味がない理由 | SPRINT 最速仕事術 | ダイヤモンド・オンライン(2017年6月21日 ジェイク・ナップ )において、ナップさんはこうも言っていました。
「僕は経験上、集団でブレーンストーミングするのではなく、各自がじっくり問題に取り組んだ方がより良い結果が得られることを知っている。
グーグルで何度もワークショップをしたときも、成功したアイデアは、どれもブレストから生まれたものじゃなかった。最良のアイデアは、机に向かっているときやシャワーを浴びているとき、一人で考えたときにこそ生まれていた。その場で考えるのでは、時間が足りなくて深く考えられないのかもしれない。
ブレストで出たアイデアよりも個人で生むアイデアのほうが質が高く独創性に富んでいるということは多くの研究からもはっきりしている。
ブレストは、付箋をペタペタ貼って言いたいことを言い合って、確かに楽しい。でも、そこで出てきたアイデアを土台にしてさらに作り込めるということは滅多に起きないんだ」
先ほども一人で考えたときのほうがよいアイデアが浮かんで"…とありました。実は集団で考えること自体がマイナスなのです。したがって、良いことのように見えるコンセンサスを得た決定というのも、優れたアイデアを得るための方法としては良いものではありません。
「トンがったアイデアも、コンセンサス方式だと、まるっとしたかたちにしてしまい、みんなで『それがいいね』と納得して決めてしまう。だが大胆なソリューションを作ろうとするとこれでは成功できない」
●そんなはずない!ブレインストーミングの悪さは集合知と矛盾?
ここらへんの話は、会議による決定のダメさと似たものがあるかもしれません。会議が良くないという話はよく言われており、
会議を多くせよ!CIAスパイの工作手口が日本企業そのものと話題になど、うちでも過去に何度もやっています。
ただ、集団そのものがダメという点に注目すると、より似ていると思ったのが「集合知」の話です。今回の知見が集合知と矛盾するか?というと、実はそうではありません。むしろ集合知の話でも、集団の問題が出ていたのです。
過去に、
集合知のメリットとデメリット 集合なのに他人の意見を知ると逆効果にでやっているように、集合知においても他人の意見に影響されることがマイナスだとわかっていました。独立した個々の知識を結集するときに、一番力が発揮されるのです。
また、今回もう一つ共通点がありました。グーグルベンチャーでは、エンジニア、プロダクトマネジャー、デザイナーの全員が同じ部屋にそろうことを重視していました。必要な専門家をすべて集めるというのが、もう一つの重要な要素なのです。
三人寄れば文殊の知恵は本当? 集合知ならぬ集合天才(collective genius)とは?の集合天才(厳密に言えば集合知とは異なるようですが)というのは、GEがやっていたやり方。ここでは、凡人を集めるではなく、「各々の専門分野において突出した才能」を集めることが肝要だとされていました。
今回はこのような感じだったのですが、実を言うと、
批判ばかりする人も助言を聞かない人も失格 ジブリとは逆、集団で作るピクサー・ディズニーの強さでやったように、ブレインストーミングで大成功しているピクサー・ディズニーといった存在もあります。分野の違いなど、条件によっては成功することもあるのかもしれません。
●過去の多くの研究でもブレストの効果に否定的 効果なしで無駄な理由
2017/09/18:入山章栄・早稲田大学ビジネススクール准教授によると、ブレストでイノベーションが起こりにくいことは、過去の研究からもわかっていたそうです。
スタンフォード大学のロバート・サットン教授が『アドミニストレイティブ・サイエンス・クォータリー』誌に発表した論文では、多くの心理学者がこれまでにさまざまな実験を行い、ブレストの効果に関する調査を進めた結果、あまりうまくいかないという事実がわかったと結論付けています。
その理由について、ブレストでは参加者が自由に思っていることを発言していいというルールがあるものの、実際には心のどこかで「これは言ってはいけない」という他者を気にする心理的なブレーキがかかり、結局は言いたいことをすべて吐き出すことが難しいからとしていました。
また、ブレストでは、誰かが話しているときはそれを聞かねばならず、その間、自分の思考が停止してしまうということも問題だとしていました。効率性という観点から見ても、たいへん悪いやり方であったようです。
(
グーグルですら、イノベーションを起こすのは簡単ではない 入山章栄氏(早稲田大学ビジネススクール 准教授)×ジェイク・ナップ氏(『SPRINT 最速仕事術』著者)対談 【前編】 | 特別対談:入山章栄×ジェイク・ナップ|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューより)
●ブレインストーミングで創造的な仕事をしてるように見せる9つのやり方
2018/09/12:ブレインストーミングで検索すると、困ったことに肯定的なものばかり出てきます。ただ、
会議、ブレーンストーミングで頭が良さげに見せる9つのトリック | TechCrunch Japan(2016年10月03日)は、ブレインストーミングは仕事している気になっているだけで意味はない…という皮肉のジョーク記事のようで、冒頭で以下のように書いていました。
<会議やブレーンストーミングの席でなにか新しいアイディアを考え出さねばならないという圧力はときに息苦しいほどになる。幸か不幸か、たいていの場合、会社が求めているのは新しいアイディアではない>
で、その見せかけだけのブレインストーミングにおいて、うまいことあなたが創造的な仕事をしているように見せかけるテクニックというのが以下でした。(多少わかりやすくするために、文面を変更しています)
1. 水を取りに行きながら「誰かなにかいる?」と尋ねる
2. 大きな粘着メモを1枚剥がして、なにか図を描き始める
3. ケーキを焼くなど、考え深そうに聞こえるようなよくわからない比喩を持ち出す
4. 「それは正しい質問かな?」と質問する
5. 「藪をつついて蛇を出すことになるのでは?」など、慣用句のようなものを使って質問の形でけなす
6. アイディアが湧き出すきっかけになるようにみえる突飛な癖を披露する
7. 「CEOはどう考えるだろう」と言ってみる
8. 「それは正しいプラットフォーム(フレームワーク、モデル)だろうか」と尋ねる
9. あるアイディアを皆が気に入りそうだったら、すかさず「よし、それで決まりだ!」と叫ぶ
上記はCrunchNetworkのメンバーで作家、コメディアンのSarah Cooperさんの執筆。もともとユーモア記事なのですけど、「風刺として笑えるだけでなく、誇張にせよアメリカのテクノロジー企業のミーティング、ブレーンストーミングの雰囲気がうかがえる」と日本語訳では書いていました。アメリカの企業もずいぶん無駄なことしているんですね。
●研究は1個だけではわからない! 18本の実験を分析してみた結果…
2020/03/28:前述の入山章栄・早稲田大学ビジネススクール准教授が、過去の実験や研究についてより詳しく紹介している記事がありました。
「ブレスト」のアイデア出しは、実は効率が悪い!:日経ビジネス電子版というものです。
実験というのは、たとえば数十人を集めて5人ずつの組を作り、「5人が顔を突き合わせてブレストする組」と「5人が個別にアイデアを出して最後にアイデアを足し合わせる組」に分けて、それぞれから出てきたアイデアを比較するというもの。すると、大抵、ブレスト組よりも個別組の方が、よりバラエティーに富んだアイデアが多く出るという結果になるそうです。
より確実なのは、個別の研究よりもそれらを「メタ・アナリシス」(メタ分析)したもの。米シラキュース大学のブライアン・ミューレン氏らが1991年に「ベイシック・アプライド・ソーシャルサイコロジー」に発表した論文では、それまでに発表された18本のブレイン・ストーミングの実証研究結果を集計して分析。やはりブレスト組はアイデアの質・量ともに落ちていました。
ブレストが機能しない理由は前述のとおりですけど、他の人が気になって意見が言えない傾向は、「権威のある人」がブレストに参加すると顕著になることもわかっているという補足情報もあります。偉い人がいると思うようにしゃべれない…ってのは、感覚的にもよくわかりますね。
●でもブレストで大成功している企業があるのはなぜ?その意外な効果
また今回の記事では、ピクサー・ディズニーでは悪いと言われているブレストでむしろ成功している…と関連する話が出てきてびっくり。世間で「クリエーティブ」と呼ばれる組織がいまだにブレストを重視していると、入山章栄准教授も紹介していました。
米スタンフォード大学(当時)の2人の経営学者、ボブ・サットンさんとアンドリュー・ハーガドンさんはこれについて研究。世界で最も成功したデザイン会社IDEOのブレストについて調べ、この会社の場合は、「アイデアを生み出す」ことを超越した役割を持っている」と結論づけています。
「アイデア出し」が目的のはずのブレストが、アイデア出しでは無能ではあるものの、別のメリットがあるために優れているというこ話。その大事なメリットは2点で、ひとつは、「組織(IDEO)全体の記憶力を高める」効果があるということ。「誰がどのようなアイデアを持っているか」「誰がどの製品に詳しいか」といった多様な情報・知が組織内で蓄積され、共有されると分析していました。
これは、トランザクティブ・メモリーの考え方だと、入山章栄准教授は指摘。ヒト1人の記憶力には限界があるのですから、組織全体に蓄積されている知全体を各自が覚えるのは非効率です。そうではなく、「誰が何を知っているか」を知るのが大事という話ですね。このメモリーは対面でないとなかなか高まらないこともわかっているそうです。
●ブレストの本当のメリットはアイデア出しではなかった…別の魅力
もう一つのメリットとされていたのは、参加メンバーが組織の「価値基準・行動規範」を共有しやすいこということ。ブレストを繰り返すほど、多様なメンバーが入り交じって同じ価値を共有し、それが日頃の業務でも意識されるようになるそうです。
IDEOではブレストが終了した後もデザイナーたちがそのまま意見交換を行うことがよくあり、そうしたインフォーマルな交流から新しいアイデアが出てくることも多いと報告されていました。こちらは、経営理論では「シェアード・メンタル・モデル」がこの考えに近いと入山章栄准教授は指摘。
「シェアード・メンタル・モデル」というのは、「組織学習では、組織メンバーがメンタル・モデル(=基本となる思考体系)を共有していることが重要」という考え方。やはり顔を突き合わせての直接交流の方が高まりやすい、と研究で報告されているそうです。
ただし、これは飽くまでIDEOの例だけで、一般論としてのブレストにアイデア出しのデメリット以上の他のメリットがあることの証明にはならないでしょう。他の研究とも合致することから、実際にメリットがありそうな感じはしますが、仮にメリットがあったとしても、ブレストがプラスに働いている企業とそうではない企業があると考えた方が良さそうでした。
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