日本は現在、ヒアリパニック中。ネットでは、アメリカで毎年100人死亡・日本のアリが強い・「ゾンビバエ」が天敵といった間違った情報が流れているのだそうです。カオスでした。
2017/07/19:今度はヒアリでに刺されても絶対死なないというデマが発生
2017/09/17:ヒアリの毒ソレノプシンが乾癬の治療に役立つ可能性
●日本はヒアリパニックで報道も過熱気味
アメリカを侵略した日本からの外来種マメコガネ(ジャパニーズ・ビートル)の最初で少し触れていたヒアリ。うちでは書かないかなと思っていたものの、結局、一つ書いておくことに。
まず、マメコガネの方でも書いていた話から。
日本農業新聞 - 戦々恐々 強毒ヒアリ 既に6カ所、女王も 国内で発見相次ぐ(金哲洙、隅内曜子)という記事の以下のあたりで、日本でのヒアリパニックの様子が少しわかります。
"強い毒を持つ南米原産の特定外来生物「ヒアリ」が国内で初めて兵庫県尼崎市で確認されて以来、11日までに繁殖能力のある女王アリも含め4都府県6カ所で見つかり、各地で警戒を強めている"
環境省によると、ヒアリは、赤っぽくつやつやし、働きアリが2.5~6.5ミリと大きさにばらつきがあるとのこと。大きさすら一定でないせいか、専門家が顕微鏡を使って観察しなければ判断できないとしていました。
ですから、そもそも素人には無理な話だろうと思うのですが、同省は「ヒアリと疑われる個体や巣を見つけても、踏んだり壊したりして刺激しないで」と呼び掛けているそうです。
●アメリカで毎年100人死亡はデマか?
ただ、この日本農業新聞の記事自体は、危機感を煽るような内容ではありませんでした。"「殺人アリ」など過剰な報道があることに対し、同省野生生物課の植田明浩課長は「むやみに怖がらず、蜂と同程度の危険度と認識してもらいたい」と冷静な対処を呼び掛け"ているとしています。ハチといっしょだと考えても、危険なことには変わりありませんけどね。
他に、ヒアリに関する死者数も大げさな報道が出回っていると指摘する
根拠は曖昧 北米だけでヒアリ死者年間100人はホントか|暮らし|ライフ|日刊ゲンダイDIGITALという記事も見つけました。
これによると、東京都は、「毒に対してアレルギー反応を起こす例が、北米だけでも年間1500件近く起こり、100人の死者が出ている」(自然環境部計画課)と明記しています。が、環境省では、「100人という数字は確認できていない」(環境省外来生物対策室)と否定的。
100人というのは、アリを研究する米生物学者スティーブン・ベルトンさんの著者が元ネタではないかと推測されていました。ただ、根拠のある数字ではなく、"人口3億2000万人の米国で、年間1000万人以上の人が刺されているというのも、フツーに考えれば刺され過ぎ"と疑問を呈していました。32人に1人が毎年刺されているという計算をしているみたいですね。
●日本のアリが強い説も拡散
もう一つ、ネット上では「在来種はヒアリと戦ってくれるので、むやみに殺虫剤をまくべきではない」とのウワサも流れていたそうです。これについて、
“在来種のアリはヒアリの定着を防ぐ”ネット上にウワサ広がる → アリの研究者は「在来種では勝負にならない」 - ねとらぼ[イッコウ,ねとらぼ 2017年07月10日 21時00分 更新]では、アリの生態系に詳しい日本蟻類研究会所属の准教授に取材していました。
准教授は、「ヒアリは非常に強いため、勝負にならない。戦ってもほぼ在来種が負けてしまうだろう」とコメント。かつて、アメリカにヒアリが侵入した時にもアメリカの在来種はヒアリに追いやられてしまったと説明しています。現状、ヒアリの「弱点は無い」(准教授)ともしていました。
●日本のアリが役に立つことがあるのは本当
ただ、一見問題外とも思える日本のアリが強い説の方が、実を言うと、100人死亡説よりもある程度真実味があります。
NHKによると、「ヒアリの天敵は日本のアリ」、「ヒアリの敵になれる存在は日本にいるアリだけ。アリというだけで駆除してはいけない」といった書き込みが多く投稿されるようになっているとのこと。これもまあはっきり言っちゃうと嘘なのですけど、日本のアリがヒアリの定着を防げるケースもあると缶がられるのです。
(
News Up 敵はヒアリ 頑張れ日本のアリ? | NHKニュース 7月15日 17時02分より)
「兵庫県立人と自然の博物館」の橋本佳明主任研究員によると、アメリカの研究グループが、在来のアリが生息する「そのままの環境」と「個体数を減らした環境」の中に、それぞれヒアリの女王アリを放しました。
個体数を減らした環境では繁殖に成功した割合が19%だったのに対し、「そのままの環境」では、ヒアリが定着したかのが0.5%以下と、抑止に大きな効果がありました。女王アリだけぽつんと1匹だった場合は、効果アリの可能性が高いのです。これは日本のアリでも同様だろうと予想されています。
●むやみに殺虫剤を使うな!は正しい
こういった違いは単純にライバルの存在の有無が大きいのでしょうね。
抗生物質のせいで突然変異して薬剤耐性菌が増えるというのは誤解?で出てきた薬剤耐性菌の話も、抗生物質そのものが悪いというよりは、ライバル不在になってしまうことの問題の方が大きそうな話でした。
そういう意味では、むやみに在来のアリを殺すべきではないというのも事実。今回取材した専門家らはみな、「殺虫剤を使って過剰に在来のアリまで駆除してしまうこと」への警鐘を鳴らしていたそうです。
殺虫剤では、在来のアリだけでなく、それ以外の生物すら殺してしまいます。その結果、アリ以外の競争相手もいなくなってヒアリが生息範囲を広げる余地を生みだしてしまうとのこと。逆効果でした。
●ヒアリの天敵はいないが、いたとしても導入は危険
なお、インターネットでは「ゾンビバエ」が天敵だという投稿も多く見られているとのこと。ゾンビになるのはハエではなく、実際にはアリの方なのですが、うちでは
奇妙な寄生生物 アリを操り首を切るタイコバエ・魚の眼球に寄生して操る菌などでやっているタイコバエのことだと思われます。
しかし、外来生物の対策を研究している「ふじのくに地球環境史ミュージアム」の岸本年郎准教授によると、アメリカで、ヒアリの駆除のために導入に向けた実験が行われたものの、成果は上がっていないとのこと。ヒアリに寄生するアリや微生物は知られているものの、結局、天敵と言える存在は見つかっていないともありました。
ただ、そもそもこういった人為的に在来種を入れる試みは、過去に何度も大失敗している方法です。今までいない種が突然来てしまうと、当初保たれていた生態系がぶっ壊れて、予想外の悪い影響が出てくることがあるためです。
ということで、間違った情報だらけでした。それだけ混乱しているってことでしょうか?
●今度はヒアリでに刺されても絶対死なないというデマが発生
2017/07/19:おいおいおい!という話。今度は、ヒアリでに刺されても絶対死なないというデマが発生しました。どうなってんの、この国は!?
ただ、今回の元ネタは既存マスコミで、日本テレビの誤報が原因。
ヒアリ死亡例確認できず 環境省HP削除 2017年7月18日 14時33分 日テレNEWS24という記事が出ていたのです。
これはタイトルだけが問題というわけではなく、中身もまずいですね。以下のように書いており、これを見たら、死亡例そのものがないのだと解釈して当然。たぶん日テレ自身誤解して書いています。
"環境省は、アメリカ農務省の報告などに基づいて「アメリカで年間100人程度の死亡例もある」などとしてきたが、専門家からの指摘で死亡例が確認されていないことが分かったという。死亡例は台湾や中国でも確認されておらず、環境省は該当する表現をホームページなどから削除した"
「ヒアリ死亡例は確認されなかった」という一部報道を検証する - クマムシ博士のむしブロ( 2017-07-19 )によると、「アメリカで年間100人がヒアリで死亡という表記を削除した」ときちんと書いているメディアもあり、100人という人数が不正確ということでしょう。作者のクマムシ博士も、"1998年までに累計で少なくとも44例のヒアリによる死亡ケースが確認されている"と強調していました。
そして、日テレの誤報から、"LINE社系の信憑性が低いまとめサイトなどがこぞって「ヒアリでは死なない」という誤情報を拡散しており、悪影響が広がっている"とのこと。地獄絵図ですね。まとめサイトのユーザー層なんかはもともとフェイクニュースに踊らされている人たちのため仕方ないところがあるものの、ため息が出るほどめちゃくちゃになっています。
●ヒアリの毒ソレノプシンが乾癬の治療に役立つ可能性
2017/09/17:まだ研究初期の段階なのですが、今度はヒアリの毒が人の役に立つかもしれないという話。米エモリー大学の研究チームが科学誌「Scientific Reports」(電子版)の2017年9月11日号に発表した論文に、、乾癬(かんせん)に効くかもしれないといったことが書かれていたそうです。
(
アンジェリカさんら乾癬患者に朗報 なんとヒアリの猛毒に効能あり! J-CAST ニュース | ライフ・美容 | 2017年09月15日より)
日本皮膚科学会によると、乾癬には種類があります。最も多いのは、皮膚が白く粉をふき、盛り上がった紅斑が全身に出る「尋常性乾癬」。乾癬の原因はわかっておらず、ステロイド剤の塗り薬や内服薬、紫外線放射などの対処療法が中心。「治療により発疹が消失する経験をする患者さんは30~70%」いる一方、再発しやすい治りにくい病気でもあります。
研究では、ヒアリが針で相手の体内に注入し、火のような猛烈な痛みを与え、場合によっては死に至らしめるソレノプシンが、基礎化粧品によく使われている「セラミド」に化学的な構造が似ていることに注目。ソレノプシンにもセラミドのように肌のうるおい成分となり、皮膚を守るバリア機能があるかどうか調べました。
博士らは、ソレノプシンの化合物を作り、それをスキンクリームに1%配合した塗布薬を乾癬にかかったマウスに28日間塗りました。その結果、比較対象であるニセ薬を塗ったマウスより、乾癬で分厚くなった皮膚の厚みが30%も減りました。
また、乾癬によって増える免疫細胞の量も50%減少。皮膚の細胞の炎症も減少しています。これらの効果は、既存の治療で使われているステロイド剤を大きく上回る改善だとのこと。有望なようです。
実を言うと、このように大騒ぎするような猛毒と思えるものを治療などで利用する…というケースは結構あります。例えば、「放射能!放射能!」と騒がれる放射性物質は医療用途で広く用いられていますし、そもそも世界最強の毒素と言われるボツリヌス菌ですら、医療や美容の分野で利用されているのです。
(関連:
世界最強の毒素ボツリヌス菌に、さらに致死性の高い新種見つかる)
今回は「だからヒアリで騒ぐ必要はないよ」という話ではないのですが、単純に物質名で判断せず、量や濃度といったことを考えておかないと、無駄にパニックを起こすことがあります。覚えておいてほしいところです。
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